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広島地方裁判所 平成9年(ワ)1716号 判決

原告

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

被告

右代表者代表取締役

右同所

被告

被告ら訴訟代理人弁護士

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金七八四〇万三四八〇円及びこれに対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して金八〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告らに対し、電子計算機(以下「コンピュータ」という。)プログラム著作権の侵害を主張して、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

原告は、 コンピュータプログラムや情報処理システムの開発等を目的とする会社であり、被告 (以下「被告会社」という。)は、平成七年八月一五日に 、平成一〇年一月一六日に現行の商号にそれぞれ商号変更し、かつては不動産業を行っていたが、平成九年四月一日目的変更後は、コンピュータソフトの開発、販売等を目的としている会社で(甲六の一)、被告 (以下「被告 」という。)は、被告会社の代表者である。被告会社及び被告 を除く被告ら(以下「被告従業員ら」という。)は、別紙1入退社一覧表記載のとおり、いずれも原告の従業員だった者で、被告 (以下「被告 」という。)及び同 はシステム開発、同 及び同 は営業、同 はシステムサービスを担当し、原告退社後、いずれも被告会社の従業員となっている。

2  本件原告プログラム

原告は、昭和六二年から、開発言語としてCOBOLを利用した地方公共団体の土木工事等の設計積算業務システム(以下「本件積算システム」という。)のプログラム(以下「原告当初プログラム」という。)を開発、販売していたが、基本ソフトOSをMS-DOSとし、日本語変換システムのFEPとして株式会社 (以下「 」という。)が著作権を有するATOK7を利用し、開発言語をCOBOLから 及び株式会社 (以下「 等」という。)が著作権を有するdbMAGICに変更したプログラムの開発を始め、平成五年一月五日、原告から株式会社 (以下「 」という。)に、 から株式会社 (以下「 」という。)に、それぞれ右プログラムの開発業務を委託する開発委託契約(以下「本件各委託契約」という。)が締結され、dbMAGIC4.3版を利用したプログラムが開発されて原告により販売された。本件各委託契約では、ソフトウェアに関する一切の権利は、 と 間では に、 と原告間では原告に帰属する旨の約定(以下「本件権利帰属条項」という。)が存在する。原告は、その後、dbMAGIC5.6版を利用したプログラム(以下「本件原告プログラム」という。)を開発販売していたが、右dbMAGICを利用したプログラムの販売に当たって、メモリーの限界からFEPとしてATOK7を使用しなければならならず、 の許諾を得ずにこれをハードウェアにインストールして、本件原告プログラム等を販売していた。

3  本件複製行為

被告従業員らは、平成七年四月ころから、原告を退社して別会社でコンピュータソフトの開発販売事業を行うことを計画し、これに利用するため、被告 及び被告 が、同年七月二二日、本件原告プログラムを原告に無断で複製した(以下「本件複製行為」という。)。

4  本件被告プログラム及び本件各販売行為

被告会社を除く被告らは、被告会社の業務として、OSをウインドウズ95とし、dbMAGIC6.0版を利用した本件積算システムのプログラム(以下「本件被告プログラム」という。)を作成し、これを別紙2販売一覧表番号1ないし24記載のとおり、契約日欄記載の日に、納入先欄記載の納入先に納入して、金額欄記載の代金額で、販売先欄記載の相手方に販売した(以下「本件各販売行為」という。)。本件被告プログラムが本件原告プログラムの原告の著作権を侵害するものであるならば、被告会社を除く被告らが民法七〇九条、七一九条により、被告会社が同法七一五条により、本件各販売行為による損害賠償責任を負うことは争いがない。

5  証拠保全及び刑事事件

原告は、被告会社を相手方として、証拠保全を申し立て、右決定により、平成八年六月一四日、本件被告プログラムの検証が行われ、これをフロッピーに複製したものが提出された。そして、平成九年一〇月、著作権法違反事件で被告従業員らが逮捕勾留され、被告従業員らに対し、本件複製行為による著作権法違反の事実で略式命令が出されたが、被告従業員らが正式裁判を申し立て、平成一一年三月二四日、被告従業員らを有罪とする一審判決が宣告され(乙一〇)、被告従業員らからの控訴及び上告はいずれも棄却され(乙一一、一四)、右一審判決が確定した。

二  争点

原告は、被告らに対し、本件複製行為及び本件各販売行為を著作権侵害行為として損害賠償を求めており、本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおりである。

1  本件原告プログラムの原告の著作権

(一) 本件各委託契約における著作権の帰属

(原告)

原告当初プログラムは、原告の発意に基づき、原告の従業員らが職務上作成したもので、原告に著作権がある。本件各委託契約に基づく開発においては、 関係者は、原告当初プログラムに基づき、原告の指示のままに作業を行ったに過ぎないもので、本件原告プログラムの著作権は原告にある。仮に、本件原告プログラムについて、 に二次的著作権等が発生したとしても、本件権利帰属条項により、原告に移転し帰属するものである。更に、仮に本件原告プログラムの著作権が にあるとしても、それは二次的著作権で、被告らの行為は、原著作物たる原告当初プログラムの原告の原著作権を侵害していることになる。

(被告ら)

原告当初プログラムは から依頼されて作成されたもので、原告が一般に販売したことに からクレームがつけられたことがあり、原告当初プログラムの著作権が原告にあることには疑いがある。のみならず、言語体系又は構造の異なるプログラム間の変換は翻案等ではなく、別個の新しい著作物となるもので、本件各委託契約に基づいて開発された本件原告プログラムは、原告当初プログラムの二次的著作物ではなく、これと言語の構造及び体系を異にする別個のプログラムである。本件原告プログラムの著作権は、原始的に に帰属するもので、 から原告に対する譲渡の合意がなければ、原告に著作権は存しない。本件権利帰属条項は、原始的に原告に著作権が帰属することを規定しており、著作権法の著作権者を定めた強行規定に反する無効な規定である。

(二) dbMAGIC著作権侵害と原告の著作権

(原告)

原告は、 等から、許諾を受けてdbMAGICを使用しており、違法に複製使用した事実はない。dbMAGICの発売元とは現在も良好な関係にあり、廃棄請求やクレームを受けたこともない。仮に、開発言語を違法に使用した場合でも、著作権が成立しないということはない。

(被告ら)

原告は、本件原告プログラムの開発過程において、正規に購入したdbMAGIC4.3版及び5.6版を違法に複製して使用しており、重大かつ悪質な犯罪行為を行っている。著作権法上、 等には、著作権の侵害行為により作成された本件原告プログラムの廃棄請求権が存するのであって、著作権法上又は公序良俗違反により、原告に本件原告プログラムの著作権を認めることはできず、原告の著作権侵害の主張は権利の濫用である。

(三) ATOK7著作権侵害と原告の著作権

(原告)

ATOK7はFEPで、通常パソコン本体やOSに附属されているものであり、利便性を無視すればそれを利用することも可能であり、本件原告プログラムから独立した存在であって、本件原告プログラムとATOK7とは一体のソフトウェアなどではなく、ATOK7の違法複製が本件原告プログラムの原告の著作権を否定するものではない。原告は、この問題を と示談解決し、平成一一年二月に約一三三万円を支払っている。

(被告ら)

前述のとおり、原告は、本体原告プログラム等dbMAGICを利用したプログラムの販売に当たって、違法にATOK7をハードウェアにインストールして組み込んでおり、本件原告プログラムを使用するためには必然的に違法に複製されたATOK7を使用することになっており、本件原告プログラムとATOK7とは一体のソフトウェアと考えられ、右(二)同様の理由により、原告の著作権は認められない。

2  本件被告プログラムの著作権侵害

(原告)

被告らは、本件複製行為により入手した本件原告プログラムに改変を加え、時間的に間に合わなかった部分は本件原告プログラムをそのまま用いて、本件被告プログラムを作成したもので、本件被告プログラムは本件原告プログラムと同一性を有し、原告の著作権を侵害するものである。

(被告ら)

本件被告プログラムは、本件複製行為により入手した本件原告プログラムにわずかな改変を加えたものではなく、OSをウインドウズ95とし、dbMAGIC6.0ベータ版を利用して、プログラムの大部分は被告会社において独自に開発したものであり、本件原告プログラムと同一性を有さず、その著作権を侵害するものではない。

3  損害額

(一) 著作権法一一四条一項に基づく損害額

(原告)

著作権法一一四条一項に規定する利益とは、右規定が著作権者の損害額の立証責任を緩和する趣旨からすれば、粗利益と解すべきであり、被告会社は、平成七年四月一日から平成一一年三月三一日まで、別紙3被告会社決算一覧表記載のとおり、合計一億三〇四八万九六四二円の粗利益を上げており、右金額が原告の損害と推定される。右利益には、メンテナンス料や株式会社 (以下「 」という。)に対する本件被告プログラムの譲渡代金が含まれているが、右も損害として算定されるべきものである。

仮に、同項の利益を純利益と解しても、被告 の役員報酬、被告従業員らの給与手当・賞与及び法定福利費・退職金を加算すべきであり、右期間中における利益額は、別紙3被告会社決算一覧表差引利益欄記載のとおり、七六五三万六五〇二円となる(以下「差引利益」という。)。

(被告ら)

同項の利益とは、純利益と解すべきである。別紙3被告会社決算一覧表記載のとおり、第3期の純利益(経常損失)に法人税等充当額四万〇七〇〇円を加算した当期損失四八万八三〇八円に第4期及び第6期の純利益を加算した、本件被告プログラムを販売していた期間の損益の通算は二二万八七〇一円であり、右金額を超える利益はない。純利益の算出に当たって役員報酬や従業員給与を必要経費と認めない原告の主張は根拠がない。被告会社が、平成一一年一月一一日、ドッドウエルビーに譲渡したのは本件被告プログラムと無関係なものである。

(二) 著作権法一一四条二項に基づく損害額

(原告)

本件原告プログラムは、地方公共団体という限定された市場を対象とするもので、原告は、本件原告プログラムを販売する形で利用してきたものであり、本件原告プログラムにおける著作権法一一四条二項に規定する著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額とは、ソフトウェアの販売価格が基礎となる。本件原告プログラムには、〈1〉土木設計積算システム(土木、下水道、土地改良及び林道)、〈2〉業務委託積算システム(土木、下水道及び土地改良)並びに〈3〉林道切取盛土数量計算・残土処理流用計画システムの三種類があり、その販売単価はそれぞれ〈1〉二三五万円、〈2〉一九五万円、〈3〉五〇万円である。本件各販売行為では、別紙2販売一覧表記載のとおり、右三種類のプログラムを販売しており、その原告における販売価格は合計一億一三四〇万円となり、右が、著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額となる。

(被告ら)

同項の使用料相当額とは、当該著作物について使用権を与える場合に通常受けるであろう金額又は著作物の種類に応じた社会的相場に基づいて算出される客観的に相当な使用料相当額をいうものと解される。本件では、右客観的使用料相当額について具体的主張立証がなされていない。

(三) 実損害額

(原告)

被告会社は、本件各販売行為により七一四〇万三八四〇円の売上を上げているのであり、従来からの販売元として大きな信頼を有する原告が、著作権侵害がなければ、右金額を大幅に上回る利益を上げたことは容易に推測できる。

(被告ら)

否認する。

(四) 弁護士費用

(原告)

原告は、被告らに対し、右損害に弁護士費用八〇〇万円を加えた内金八〇〇〇万円及びこれに対する不法行為日の後である平成一〇年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告ら)

弁護士費用は争う。

第三  争点に対する判断

一  本件原告プログラムの原告の著作権について

1  本件各委託契約における著作権の帰属について

本件権利帰属条項は、当事者の合理的意思解釈によれば、仮に に著作権が発生するならば、 から に、 から原告に著作権が譲渡されることを合意したものと解される。したがって、本件原告プログラムについて、原告の著作権を認めることができる。

被告らは、本件権利帰属条項が、原始的に原告に著作権が発生することを定めた強行規定に違反する無効なものであると主張するが、本件権利帰属条項は、著作権等の権利が原告に帰属することを定めるのみで、原告が原始的に著作権を取得することを規定したものではなく(甲六九、七〇)、右主張を採用することはできない。

2  dbMAGIC著作権侵害と原告の著作権について

原告は、本件原告プログラム開発の際、複製したdbMAGICを複数のコンピュータに組み込み使用しており、 等では、dbMAGICは一製品一ユーザの利用を前提とした製品で、一台のコンピュータシステムに使用する使用権を与えるもので、それを越える形態での利用を許諾したことがないことが認められることからは(乙三、四、五の一ないし五の三、六)、原告が、dbMAGICを違法に複製して使用していたというべきである。この点、原告は、 等から許諾を得ていた旨主張するが、右許諾があったことを認めるに足りる証拠はない。右によれば、 等には、著作権の侵害行為により作成された本件原告プログラムの廃棄請求権等が発生することが認められるが、だからといって、直ちに本件原告プログラムの原告の著作権が否定されるものではない。違法複製の点は、事後的に使用許諾を得て解消することも可能なのであって、廃棄請求権が行使されて確定し、著作物たる本件原告プログラムの存在自体が対世的に否定されるような場合は格別、現に存在する著作物の著作権が対世的に否定されるものではなく、著作権侵害行為の当事者でない第三者がその作成過程の違法を主張して著作権を否定することはできないと解すべきである。更に、被告らは、原告の著作権が公序良俗に反する無効なもので、著作権に基づく請求が権利の濫用であると主張するが、著作権侵害行為が極めて悪質な場合に、その行為により作成された著作物の著作権に基づく請求が権利濫用等により許されない場合があることは考えられるにしても、本件においては、原告は、正規に購入したdbMAGICも使用しており、これまで 等から廃棄等を請求されたことはないことからすれば(甲七五、原告代表者本人)、原告の著作権の発生やこれに基づく請求を無効又は権利濫用と言うことはできず、被告らの主張を採用することはできない。

3  ATOK7著作権侵害と原告の著作権について

ATOK7はFEPで、本件原告プログラムから独立した存在であり、ATOK7の違法複製が本件原告プログラムの原告の著作権を否定するものではない。更に、原告は、事後的に から許諾を受けたことが認められ(甲七六の一、七六の二)、ATOK7の違法複製を理由に原告の著作権を否定する被告らの主張を採用することはできない。

二  本件被告プログラムの著作権侵害について

作成の報告書(甲三四)及び供述調書(甲三八)によれば、本件被告プログラムは、本件原告プログラムと比較して、名称、属性及び記述順まで一致する一致箇所や、名称の違いだけで記述順やコマンドによる制御などが一致している酷似箇所が相当数認められ、本件原告プログラムをベースとして改造、機能アップ、整理による統廃合が行われたものと推察されること、 作成の回答書(甲三六)及び の供述調書(甲三七)によれば、本件原告プログラムと本件被告プログラムのソースコードを比較した結果、データ構造が全般にわたりほぼ同一であり、処理部分について、機能の分割方法は、一般にシステムの設計段階において決定され、同一ということはまずあり得ず、更に、その記述内容が数頁にわたりほぼ同一となることはまずあり得ないことながら、分割方法及び内容がほぼ同一であり、本件被告プログラムは、本件原告プログラムをベースに改良したものと推察されること、捜査状況報告書(甲四二)によれば、本件被告プログラム中に、被告従業員らが原告を退職する平成七年六月以前の更新日時が記録されたファイルが確認されたことがそれぞれ認められる。更に、被告らが、本件複製行為により本件原告プログラムを入手しており、被告従業員らの供述調書(甲四七ないし六八)及び被告 本人尋問の結果によれば、被告従業員らが、新たにプログラムを作成していたのでは平成七年中のデモに間に合わないため、本件原告プログラムを複製して利用することにし、複製した本件原告プログラムをウインドウズ95及びdbMAGIC6.0で正常に動作するように修正を加えていったことが認められ、これらの点を総合すれば、本件被告プログラムは、本件原告プログラムを翻案して機能を改良したもので、本件原告プログラムと実質的類似性(同一性)を有し、その著作権を侵害するものと認められる。

被告らは、本件被告プログラムは、被告会社により独自に開発したもので、一部本件原告プログラムの内容を参考にしたり複写して利用した部分はあるものの、本件原告プログラムと同一性を有するものではないと主張し、被告 はその旨供述するが(被告 )、OSをウインドウズ95とし、dbMAGIC6.0ベータ版を利用して開発したことで実質的類似性が否定されるものではなく、前記本件原告プログラムと本件被告プログラムの一致及び類似点は、独自に開発した場合、被告 らが原告において本件原告プログラムの開発等に関与していたことで説明できるものとは言い難いこと、デモ用のプログラムが、本件原告プログラムに修正を加え平成七年一二月ころ完成したが、その際は印刷機能については完成しておらず、平成八年二月一日、一部の印刷機能が完成したプログラムを に納入し、同年四月以降完成した本件被告プログラムを納入していることに照らせば(甲五〇、五九)、本件被告プログラムは本件原告プログラムに徐々に修正を加え完成させていったもので、これとは別個に独自にプログラム開発を行う時間的余裕はなかったと考えられること、証拠保全の際、被告らが、本件被告プログラム中に残っている本件原告プログラムの一部が発覚することを恐れ、dbMAGICのパスワードを明らかにするのを拒否していること等の事実に照らせば、右被告 の供述を採用することはできず、他に、本件被告プログラムが本件原告プログラムと実質的類似性を有し、その著作権を侵害するものであるとの認定を覆すに足りる証拠はない。

三  損害額について

1  著作権法一一四条一項に基づく損害額について

原告は、同項に規定する利益額について、被告会社の平成七年四月一日から平成一一年三月三一日までの粗利益又は差引利益を主張するが、右利益の基礎となる右期間中の売上には、 に対するプログラム譲渡代金等本件各販売行為以外の売上が含まれているところ、原告が本件で主張する被告らの著作権侵害行為は、本件複製行為及び本件各販売行為であり、右本件各販売行為以外の売上の内容は明らかではなく、被告らによる著作権侵害行為との因果関係も認めることはできない。 に対するプログラム譲渡代金等についても、右プログラムが本件被告プログラムと認めるに足りる証拠はない。結局、本体で原告が主張する著作権侵害行為による被告らの利益額を算定する前提としての売上としては、本件各販売行為の代金合計七一四〇万三四八〇円と認められ、右を超える売上を認めることはできない。

右売上から控除すべき経費につき、これを原告において明らかにすることは困難で、被告らが、本件各販売行為の売上原価計算を明らかにする旨釈明しながら、結局、明らかにしていないこと、被告会社の決算報告書(乙一、二、八、一三)記載の売上原価としての仕入の内容も明らかでなく、本件各販売行為の経費と認めるに足りる証拠がないこと、同じく一般管理費のうちの給与手当や役員報酬には、被告従業員ら及び被告高矢の著作権侵害行為に対する対価が含まれるもので、これを経費と認めることはできないこと、その余の一般管理費等も、その内容が不明で本件各販売行為の経費と認められないことに照らせば、結局、本件各販売行為の経費として控除すべきものはなく、原告の損害と推定すべき被告らの利益額を七一四〇万三四八〇円と認めるのが相当である。

被告らは、利益額について純利益を主張するが、売上及び経費のいずれも右主張を採用できないことは、前述のとおりである。

2  著作権法一一四条二項に基づく損害額について

著作権法一一四条二項の規定は、同条三項にこれを超える損害に関する規定があるように、著作権者による損害の立証が困難な場合が存在することにかんがみ、最低限として使用料相当額の損害賠償を認めた趣旨であり、当該著作物について使用権を与える場合に通常受けるであろう使用料相当額をいうものと解される。原告は、本件各販売行為を本件原告プログラムに置き換えた場合の販売価格を右相当額として主張するが、これは、被告らによる第三者に対する本件各販売行為について、その全てを原告が第三者に販売できたとみなして損害を主張するものに他ならず、被告らに対する使用権付与の対価とはいえない。原告の右主張を採用することはできず、他に、本件原告プログラムの使用料相当額を認める証拠はない。

3  実損害額について

原告は、本件各販売行為代金額を超える得べかりし利益として実損害額を主張するが、本件被告プログラムは、本件原告プログラムの機能を改良したものであり、原告が、本件各販売行為の相手方に本件原告プログラムを販売できたことを認める証拠はなく、右金額を超える原告の実損害を認めることはできない。

4  弁護士費用について

以上により認められる原告の損害額七一四〇万三四八〇円に対し、これとは別個に弁護士費用として七〇〇万円を認めるのが相当である。

四  結論

よって、原告の請求は、七八四〇万三四八〇円及びこれに対する本件各販売行為より後である平成一〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条、六四条ただし書きを適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田明)

(別紙1)

入退社一覧表

〈省略〉

(別紙2)

販売一覧表

〈省略〉

(別紙3)

被告会社決算一覧表

〈省略〉

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